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第二章「邂逅と交錯」

 いつも通りの任務と訓練の日々だ。何も変わらずに惑星調査の派遣領域拡大のための初級任務を繰り返す。あれからたびたび不思議な女性シオンに出会う。彼女は僕にしか見えていないようだ。彼女に指し示されるまま、終了済みの任務をもう一度繰り返し達成し、ある学者の手伝いをするために凍土へ向かったりしていた。今思えば、小さなタイムリープ(空間的時間遡行のこと)をしていたのかもしれない。時折、突如としてけたたましく警報がアークスシップ中に響き渡り、採掘場にダーカーが現れたと通告が入ることもあった。即座に全ての任務破棄、採掘場防衛戦へと即派遣される。「ダーカーの殲滅」がアークスの活動する目的の最重要項目にあるからだ。その忙しい日々のなかで少しずつこころの奥底から湧き出でてくる小さな感情があった。

 

 「寂しさ」だった。「孤独」だった。

 

 誰が用意したかもわからないような居住空間にひとりで起きてひとりで準備し、ひとりで任務に赴く。その繰り返す生活の中である日、あの恐ろしいアークス修了任務に参加した時点から過去の記憶がごっそり抜けてしまっていることに気付いた。「え…?全く思い…出せない?どういうこと…?」

 

 混乱した。

 

 必死になって思い出そうとするが過去の記憶が《そもそも存在していない》感じがあった。何もないのである。そうすると湧いてくるのは恐怖である。 「僕ってなんでアークスになりたかったんだっけ…僕の母さん父さんはどこにいるのかな…なんで僕ひとりぼっちなんだろう…母さんの顔が分からない…」 次から次へと疑問が湧いてくるがその疑問たちは彼を小馬鹿にしたように頭の中をぐるぐる駆け巡るだけで答えを教えてはくれなかった。

 

 その日もいままでと変わらぬいつも通りの任務だった。

 コフィーさんから提示された任務を遂行するだけのお仕事、惑星リリーパの砂漠での結晶回収の任務。キャンプシップで任務先のマップを見てみれば指定ポイントまではかなり距離があった。ひとりでいるときに修了任務のときのようなダーカー出現でもしたらひとたまりもない。指定ポイントまで急ぐことにした。

 

 ひとり、リリーパの砂漠を走っていく。自分の影が面白おかしくついてくるような感覚に襲われる。静寂があたりを支配し、砂を蹴りあげる音だけが際立って響いていた。

 不思議な空間だ。宇宙がとても近い、そして破棄されたような建造物の数々。昔ここには文明が栄えていたのかな。どんな人たち、生き物たちが生活していたのかな。彼は走りながらぼんやりと惑星リリーパの過去に思いを馳せていた。彼はあまりにも無防備だった。悲鳴を引き延ばしたような聞き覚えのあるイヤな音が彼の耳に響いた時には遅かった。

 「!!!」

 後ろを振り向いた時には既に絶望(ダーカー)は攻撃の予備動作を行っていた。エル・アーダは空中で攻撃予備動作として一回転し速度を上げ、そのまま吸い込まれるように彼へめがけて一直線に突進してきた。

 「(しまった…!!)ッ!!!」

 咄嗟に身構えた時の恐怖の叫びは声にならなかった。反射的に強く目をつむった。

 

 『キィィィーーーーーン』

 

 目の前で鋭い金属音がした。エル・アーダの攻撃は彼には届かなかった。

 「…?」

 おそるおそる目を開けると自分をまさに攻撃しようとしたエル・アーダが霧散していくところだった。黒いもやになり、輪郭が崩れていく。そして、目の前に黒いボディに赤色のラインが入ったキャストがそのもやから出てきた。この人が守ってくれたのか…、背がとても高い。彼は見上げ、お礼を言おうとしたとき、黒いキャストは振り向いた。

 「ふーっん…アンタがあのアスクレピオスねぇ…。」

 

 女性キャストの声が凛と響き渡った。カタナをしまいながら、彼を覗き込んだ。

 「…え…あ?は、はい…アスクレピオス、です」 返事をしたが、喉がカラカラになってしまっていて小さな声にしかならなかった。黒いキャストは深いバイザーをしていてどんな表情をしているのか分からなかった。頭部中央にユニコーンのような白いアンテナが伸びており、日光が反射した。

 

 「まぁほんとはアンタとこうして直接会う予定はなかったんだけどさ、アンタが鈍くさく走ってる後ろをさっきのダーカーがついてきてるのアンタは気付いてない様子だったから思わず手を出しちゃったわ。まぁ?ここでアンタがさっきので負傷してアタシがアークスシップに抱えて戻ることになった方がリスクが高くなっちゃうからねぇ…。普段だったらほっとくんだけどさ。フンッ!運がよかったわね。」

 腕組みをし、少しばかりイライラしたような様子だった。

 「・・・え、ごめんなさい・・あ、ありがとうございましt・・」

 

 『まぁまぁクラウィス、ほんとに危なかったんだしぃ~?♪顔合わせもできたんだし一石二鳥じゃにゃ~い?』

 「え?」

 先ほどまで聞いていた女性の声ではない違う女性の声が響いた。ほかにも助けてくれた人がいたのだろうか、きょろきょろとあたりを見回した。するとキャストの人が手を振ってきた。

 『あぁ?わたしわたし!メンゴメンゴ!びっくりしちゃうよね~!わたしはこのキャストの別人格のもう一人のわたし。まぁ名乗り上げるのは今回は勘弁してちょ!』

 「さっきアタシの名前おもいっきし呼んだけどね???」

 『あ、あぁ~?なんのことだか~?あなたは何も聞いてないよね?ね?』

 信じられなかった。一人のキャストの身体に二つの人格が入ることはありえないからだ。

 

 『ありゃりゃ、聞こえてにゃいか。まぁ簡単には受け入れられないよね♪しゃーないっしょ!でも正直まだこのシフトには慣れてないのが現実にゃんだよね~♪ふっつうに大型級ボス出てこられたらわたしらでも手に余るし。お互いラッキーだったにゃ♪じゃあ、このことは他言無用で!またね!治癒神アスクレピオスくん♪』

 ピースにウィンクすると(バイザーで見えなかったがしたような気がした)そのまま砂漠の果てへ向かって走り去って行ってしまった。呆然と立ちすくむ彼だけを残して。

 「な、なんなんだ・・・?治癒・・・?神・・・?どうして僕の名前を・・・?」

 思わず気持ちが漏れてしまった。

 

 ほどなくして何事もなく、結晶採掘回収も終わり、アークスシップまで帰ってきた。いつも通り報告書も簡単に済まし、送信し終わった時であった。

 『ピコンッ!!』

 「ん?」

 ビジフォンにアクセスすると新着メールのお知らせが出た。それを開けてみると文面には【チームへ入りませんか?】と書かれていた。一瞬なんのことかわからず何回も同じ文面を読んでしまった。信じられなかった。

 (・・・え?凄いうれしい・・・)

 おずおずとメール内容を進めていくと【YES or NO】のポップが出てきた。深呼吸すると、迷わずに【YES】のボタンを押した。

 

 「「「パンパカパァァアァンッッッ!!!!!」」」

 

 クラッカーの音が鳴り響き【ウェルカム、ぼくらのチームへ!】のにぎやかなポップが新しく出てきた。そのままビジフォンの指し示すまま、チームマスターのもとへ感謝と挨拶の定型文のメールを送信した。すぐさまチームマスターから返事が返ってきた。うれしかった。チームルームという特殊な部屋への入場権が許可され、そこにアクセスしてみた。

 入ってみると広大な宇宙が広がっていた。なんだか切ないメロディが流れていた。嬉しくてたまらなかった。チームルームの窓の向こうには広い広い宇宙がどこまでも続いていた。彼はその広大な宇宙に見惚れながら呟いた。

 

 「ここがぼくの新たな居場所・・・」

 先のミッションでの不思議な女性キャストのこともすっかり忘れて、いつまでも静かに流れる音楽に耳を傾けていた。

To Be Continued

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